自発呼吸と人工呼吸の違いは、単に自分で呼吸するか、空気が送り込まれるか、という理解では不十分です。両者には生理学的に明確な違いがあります。それを理解することはACLSで解説される「過換気の弊害」の理解や、気管挿管され人工呼吸器下にある患者のアセスメントに不可欠なものです。
自発呼吸は胸腔内が陰圧、BVMによる換気(人工呼吸)では陽圧になる
胸腔(胸膜腔)とは胸郭(壁側胸膜)と肺の表面(臓側胸膜)に囲まれた空間を言います。
この空間は普通に呼吸をしている私たちは、息を吸うときに陰圧になります。それによって肺(臓側胸膜)に常に広がろうとする力がかかり、肺が膨らむのを助けているわけです。
息を吸うときは肋間筋によって胸郭が広がり、横隔膜が収縮することで足方向に動き、胸腔全体の体積を広げます。胸腔は閉鎖空間ですから、体積が増えることでさらに陰圧が強くなり、肺が外側から引っ張られる形で拡張するのです。
それに対して人工呼吸ですが、CPAや昏睡の患者さんに自発呼吸はありませんから、肋間筋や横隔膜の随意的な動きはありません。バッグバルブマスクによって強制的に空気が送り込まれ、肺の内側から押し広げられるように拡張します。自発呼吸のように胸腔体積は大きくなっていないので、肺だけが大きくなり、その結果胸腔内圧が陽圧となります。
以上が自発呼吸と人工呼吸の違いです。
この様な人工呼吸の特徴が引き起こす過換気の弊害について、具体的な機序については別の記事で紹介していきます。
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気道・呼吸管理を実践から学ぶには
AHA-ACLSプロバイダーコースでは、バッグバルブマスク換気の手技だけでなく、どんな時に必要か、具体的な判断をシミュレーションの中で学ぶことができます。今回述べた知識は、二次救命処置における「過換気の弊害」を理解する上で重要となります。手技自体は実はそこまで難しいものではありません。実践のなかで、きちんと気道・呼吸の評価をして、遅滞なくA(気道)、B(呼吸)の異常へのアプローチをすることが大きなハードルと考えます。AHA-ACLSプロバイダーコースではそれらを実践の中で学ぶことができます。